好きになった人、愛した人。
「自分の弟が病気だから? 恥ずかしいとでも思った?」


「バカ言うなよ。だったらチハヤに家庭教師を頼んだりなんてしない」


「じゃぁ、どうしてよ」


そう言ったとき、定員がコーヒーを持ってきた。


置き方が雑で、カップから少しこぼれてしまった。


謝りもせずに立ち去る定員を視界の横で見送ってから、「どうしてよ」と、再び聞き返した。


矢原はぼりぼりと頭をかいて、観念したように口を開いた。


「俺の弟さ、体が弱いだろ? だから、いつもいつも、両親はあいつに付きっ切りだった」
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