不機嫌な果実
オレは焦って桃子を抱き寄せた。

「凌・・也?」

少し震えた声で、桃子がオレを呼ぶ。

…きっと今のオレは、誰が見ても驚くくらい、

顔は真っ赤に違いない。だから・・・


「黙って泣いてろ」

「・・・」

ギュッと、桃子をオレの胸にきつく抱きしめた。

…それからどれくらい経ったのか?


桃子の泣き声はいつの間にか止み、2人の息遣いだけが

暗闇に響いた。


「凌也…離して?」

桃子のくぐもった声が聞こえて、そっと桃子から力を抜く。

落ち着いたせいか、顔が熱いのは、止まっていた。


「・・・泣き虫」

つい、憎まれ口を叩いてしまった。

・・・でも。


「慰めてくれてありがとうね?・・・凌也が彼氏なら、

きっとすごく大切にしてくれるんだろうね」

そう言って微笑むと、クルリと体を反転させ、

桃子は家に向かって歩き出した。


「いつでも彼氏になってやるよ」

小さな声で呟いた。

「・・・え?」

オレの声だけが聞こえたらしく振り返り、聞き返す桃子。


「何でもねえ」

それだけ言ってはぐらかせて、オレは桃子を追い抜いた。
< 52 / 90 >

この作品をシェア

pagetop