あしたの先
彼は同じ職場の、違う部署の人。
そんなに大きく無いホテルのフロントで、千景は契約社員として働いている。
彼は、そのホテルの地下にあるレストランのサービスマン。
2年前に千景がフロントで仕事を始めて出会い、それから少しして付き合った。
それまでの生き方の違いもあり困らせたり怒らせたりする事も多々あったが、なんだかんだ穏やかに一緒に過ごしてきた人。
篠崎 圭。
それが彼の名前。
なかなか売り上げが向上しない中、ストレスと戦いながら一生懸命働く人。
それぞれの部署に、マネージャー、キャプテンが配置されているが、彼はキャプテンの1人として活躍している。
部署と言っても、フロント、レストラン、経理の3つと、後は設備や清掃をしている子会社が入っているだけの小さなビジネスホテルでお互い仕事をしている。
仕事は仕事。
プライベートはプライベート。
そう考えているので、ホテル内の何人かの他には、付き合いは公にしていない。
社員と言っても月給は少ないし、千景も契約社員で時給制の安い給料だし、彼は30手前の年齢だが結婚はまだ考えていないだろう。
千景自身も20歳になったばかりで仕事を続ける気でいるし、そんなにすぐ言う気になれない。
伝えるのは早ければ早いほど良いとも思うのだが。
"千景は何も言ってくれないからわからない事だらけだ"
そう言われた事もあったな、と思い出し、また少し笑った。