視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~

--- その日の昼休み。


私は大輔と二人、中庭でお弁当を食べていた。

その最中に、なんで香里奈が居ないのかと聞かれて、私は本当の事は言わず、
『風邪をこじらせたみたいだよ?』
と、嘘をついた。

記憶を無くした大輔に、説明するのが面倒くさいのもあったけれど、それよりも【黒い靄】から解放されたばかりの大輔に、改めて話す気にはなれなかったんだ。


おばさんが、吐き戻してしまう位の何かがあったんだから、
大輔にだって負担がかかるはず。
何かがきっかけになって、思い出せたくはない。


そう思ったんだ…。

お弁当を食べ終わる頃に、中庭から見える渡り廊下に、私のクラス担任である河内先生の姿が見えた。

私に気付いた河内先生は、渡り廊下から私に手招きをしてきたんだ。

私は大輔に、
『ちょっと待ってて?』
と言って、河内先生の方に駆け寄って行った。


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