視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
『香歩さん?何かあったのかい?』
「長田さん…。私、もう分からなくて…。」
泣き声混じりに話す私に、長田さんは気遣う様に優しい声で話し始めた。
『私も連絡しようと思っていたんだよ。でも、まずは香歩さんの話を聞かせてもらえるかい?』
私は、泣きながらもひとつずつ話していった。
昼間に言い忘れた事も含めて…。
大輔と付き合う様になっていた事。
それが、【MOYA】によって記憶を変えられた事かもしれないという事。
アルバムに写っている”私”が、去年の7月まで全然違う人物だという事。
その違う私も、今の私も、大輔や、お母さんは違和感なく”香歩”だと言っている事。
長田さんは、口を挟むことなく全てを聞いてくれていた。
その長田さんは、私が話終えた後、
『香歩さん…。私も伝えなければならない事があるんだ…』
と、言いずらそうに言葉を濁した。
「はい。…教えて下さい。」
その私の返事を聞いて、長田さんはゆっくりと話し出した。
その話は…私を、絶望へと導いたんだ…。