視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~

長田さんは、私の名前をもう一度呼んだ後、
『落ち着いて聞いてほしいんだ。』
と言った。


『大輔君が言っていた”塩谷清隆”さんについても調べてみたんだよ。清隆さんの言っていた通り、明治4年生まれ。』


「……えっ。」


『だが、清隆さんは明治23年の19歳の時に殺害されている。犯人は捕まらず仕舞いだったようだ。』


「…殺害?…長田さん。その…セツという女性も殺害されていましたか…?大輔は、まるで清隆さんが死んだ後に、セツさんも死んだかの様に言っていましたが…。」


『…すまない。セツさんという女性の事は、何も書かれていなかった。なんせ古い時代の事件だ…。清隆さんの親近者に、その様な人がいたかどうかも分からない…。』


「…そうですか。」


『香歩さん。この話はまた明日以降にしよう。君も酷く疲れているようだ。…今は、ゆっくり休みなさい。』


長田さんのその言葉に、私は、
『…分かりました。』
としか言えなかった…。


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