視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
長田さんは困った顔をした後、お母さんの方に視線を向けた。
お母さんは、そんな長田さんには目もくれずに私に言ったんだ。
「香歩っ?忘れているなら、あえて知る必要は無いわ。香歩は、知らなくていいのっ。」
きっと、お母さんは私と取調室に同室していた二人の惨状を知る事、それを心配しているんだろうと、そう思った。
「さっき、大輔に少し話を聞きました。私と同室していた方は、どうなったんですか?」
長田さんは、お母さんの方をチラリと見た後、
『二人は…亡くなりました。』
と、そう答えたんだ…。
私が意識を手放す前、腕を折られた神崎さんは、まだ生きていたはずなのに…
あの後…【黒い靄】に…
私は瞼をぎゅっと閉じ、両手を握り締めた…。