視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
お母さんは…背中に【黒い靄】を纏っていた。
顔に流れる雨水を振り払うかの様に首を振った後、ニヤリと笑って口を開いた。
『【MOYA】ハ時トシテ暴走スル。困ッタモノダ…。コウシテ君ヲ、守ラナケレバナラナイ。』
「セツ。返事をしてはいけない。あいつは栄だ。」
「は…はなぶさ?」
「…そうだ。」
そう大輔が言った直後、膝をついていたおばさんが、振り向き様にお母さんの腹部を刺したんだ…。
「きゃああぁあ!!お母さん!お母さん!!」
叫んでお母さんに駆け寄ろうとしたんだ。
だけど、大輔に腕を掴まれて走り出せなかった。
腕を振り払おうとしても、振り払えない。
私がお母さんの名を叫びながらそちらを見ると、お母さんはナイフで刺されているのにもかかわらず、表情を変えてはいなかった…。
その後、顔をニヤつかせたお母さんは、腹部に伸ばされたおばさんの腕を片手で掴み、包丁を握っていた方の腕を高く振りかざした。