視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
「香…歩…?」
私を見上げたお母さんの目は、もう赤くはなかった。
お母さんは苦しそうに顔を歪めた後、ゴホッと咳き込みながら、口から血を吐いたんだ…。
「お母さんっっ!!」
私は、お母さんに走り寄り道路に座り込みながらお母さんを覗き込む。
「お母さんっ!い、今、救急車呼ぶから!」
と言って、持っていたバッグの中に手を突っ込んだ。
携帯を取り出して、番号を打ち込もうとするけど、指先が震えて上手く打ち込めない。
「は、早くっっ!早くしなきゃっ…!!」
そう慌てながら呟いていた私の腕を、お母さんは血だらけの手で掴んだ。
「お…お母さん…?」
私の呼び掛けに、お母さんは苦しそうな表情をしながらも私を見て微笑み、そして首を横に振った。