視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~

ゆっくり私が振り返ると、そこには端正な顔立ちをした男性が立っていた。

その容姿とは不似合いな、着古した様な袴を身に纏っている。

その男性には見覚えはない。

それなのに、切ない様な、悲しい様な…、それでいて恐れる気持ちが沸き上がる。

まるで、自分自身ではない人の気持ちが、流れ込んでくるかの様だった…。

私の目の前に立つ男性は、
「セツは、現世に行く度に、どうしても記憶を無くしてしまうね。」
と、どこか悲しげに笑ったんだ。


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