視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
当時の事を思い出したのか、栄は声を荒げていった。
「自分の女にする為だからじゃないのか?!」
「…それも、違うわ。塩谷さんは、セツが既婚者だと知っていた。『身請けした後は、月姫の意志に任せます。私は、金で彼女を買ったわけではないのです。彼女の幸せを守る為にした事ですから。』と、そう言ったの。」
「そんな事を…今更信じられるわけがないだろう?!」
「セツも、その申し出に…塩谷さんの所に行きたいとは言わなかった…。私達の家に帰り、家族の支えになりたいと、そう言ったの。」
「…セツ…が…?」
そう呟いた後、栄は膝を着いて俯いたんだ…。