視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
「おじさんっっ?!!」
私の声掛けに、大輔のお父さんはゆっくり顔を上げた。
何日も剃っていないのか、顎には濃く髭が生えていた。
顔もやつれていて顔色も悪い。
いつも身綺麗にしていたおじさんの異変に、何かがあったであろう事を、気付かずにはいられなかった。
私の後ろから、長田さんがリビングに足を踏み入れて来て、
『失礼します。』
と言い、私の横に立った。
「おじさん…。おばさんは…どこですか?」
「……香歩ちゃん。あいつは、あいつは…。」
おじさんは声を絞り出す様にそう言った後、握り締めていた紙を更に強く握り締めた。
長田さんはおじさんに近付いて行って、
『…拝見します。』
と、おじさんの手に握られていた紙をゆっくり抜き取った。
「これは……。」
そう呟いた長田さんの後ろから、私もその紙を見たんだ。