視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
その声を聞いた長田さんは、素早く立ち上がって『君達は、そこに居なさい。』
と、言葉を残して階段を駆け下りて行った。
私は、大輔に抱き締められたまま動けずにいた。
「あ…あの。…私は…。」
私を抱き締めているのは大輔なのに、まるで大輔じゃない様に感じた私は、遠慮がちに話し出した。
大輔は、そんな私の頬を両手で包み込んで、
『記憶を無くしているのか…?セツ。』
と、そう言った。
「私は、”セツ”さんじゃない。”香歩”です。」
「いや、君はセツに間違いない。私が見間違うわけがないんだ。」
「で…でも…。」
そう言う私に、自分を”清隆”と言った大輔は…
「君はセツだ。…左側の太股に、火傷の痕があるはずだ…。」
そう言ったんだ…。