視界の端の黒い靄 ~ MOYA ~
見えない過去
おばさんは大輔を、ちゃんと”大輔”なんだと分かっていて”清隆”とは言わない。
けど、大輔は自分を”清隆”だと言って、自分のお母さんを覚えていないみたいな雰囲気だ。
でも、二人が共通して言うのは…
『セツ』
その名前。
どうしたらいいのか、どう聞いたらいいのか分からなくなって、私は大輔の腕の中にいながらも、長田さんに視線を送った。
長田さんは手帳にメモをとりながら、私の視線に気付いて曖昧に笑った。
大輔のお父さんは、おばさんと大輔に、
『取り合えず、着替えた方がいい。』
と言って、おばさんの腕を引いて行った。
だけど、大輔は、何故か私から離れようとしなかった…