forget-me-not
2
朝の和かな陽射しがイオの眠る部屋に差し込む。
町の小さな宿の一部屋。
少し固いベッド、小さな椅子と机。それだけがこの部屋の家具だった。
「む……ぅ」
どうやらイオは夢と現実の狭間を彷徨っているらしかった。
目覚めそう、でも目覚めない…。
ばたつかせた足が音をたて壁にぶつかった。
「……っ」
イオは予期せぬ足の痛みにがばっと飛び起きた。
ゆっくりと開かれた深緑の瞳は光を集めたかのように輝いている。
「あ…時計塔。ウルドと約束したんだ。
まだ現実味が湧かない…。昨日のことまるで夢みたいで」
イオは昨日の出来事が未だに信じられないようだ。
しかし、このままこうしていても仕方ないので、不思議な気分のまま、身支度を始めた。
栗色の髪を梳かし、旅用の軽い服装に着替える。
上は丈の短い半袖のジャケットを羽織り、下はショートパンツにブーツといった格好。
そして武器、剣を肩から下げる。
「よし。完璧………じゃなかった。昨日のネックレス着けるんだった」
鼻歌まじり、昨日ウルドから渡されたネックレスを手にとる。
綺麗な青い宝石は、小さいながら存在をしっかり主張している。
優しい光…。
見ていると心が安らぐ気がする。
イオは一人頬笑み、ネックレスを首にさげた。
胸で輝く青。
いつか見たような青。
「……よし。出発だ」
扉は鈍い音を立て開いた。
これから何が待ち受けていようと負けないというイオの誓い。
青い空に高く謳った。