forget-me-not
「お二人さーん。
門開けましたよ」
門番の声に、イオの注意は門へと移った。
「――ふぅ…」
じろじろ見つめられるのが苦手なウルドは、やっとイオの視線から解放され、安堵の溜め息を溢した。
「ん、ウルドどうしたの?
もう町に入れるよ。早く宿探さなきゃ」
「あ…」
ウルドが答える間も与えない。イオはウルドの手を引き、駆け出すのだった。
いつだってマイペースで明るく愛らしいイオ。
そんなイオに振り回されるへたれなウルド。
「ウルド」
走りながらイオはウルドの名を呼んだ。
「――どうした?」
ウルドはイオの顔を見た。
町から漏れる灯りに優しく照らされるイオの顔は穏やかだった。
「ずっと…、ずっとこんな風に二人で旅したいね」
イオの放った言葉。
もちろんウルドも同じ気持ちだった。
“いつまでも一緒に旅をしたい”
イオにそう言ってもらえることはウルドにとって何よりの幸せだ。
しかし同時に、その言葉はウルドの心を締め付ける棘にもなる。
「―――そうだな」
静かに呟くウルドの心情をイオは知らない。
「ウルドと出会えてよかった」
屈託のない笑顔のイオ。
ふと溢した偽りのない気持ちは、町の灯りに溶けるように消えていった。