forget-me-not
聞こえてくるのは、隣のベッドで眠るウルドの静かな寝息。
窓の向こうのサンドーネの町も皆、寝静まる真夜中。
月明かりだけが頼りの部屋、イオは眠れずに天井を見つめていた。
ちらりと隣のベッドを見やるが、見えるのはウルドの後ろ姿だけ。
「ウルド…」
小さく、か細く呟く相方の名前。
(孤独な旅に光を与えてくれた人。
自分を何よりも大切に思ってくれる人。
そして…、謎の多い人。
ウルドは自分の…何なのだろう?)
ハノエラの神殿でウェリムーザが見せた記憶の断片。
あのスケッチブックに描かれた下手くそな絵。
青い花の中、手を繋ぐ少女と少年。
(私は大切なことを忘れているの…?)
わからない。
わからない。
ウェリムーザの言葉の意味がわからない。
「ウルド…。君は今何に苦しんでいるの?
君を救うにはどうしたらいい?」
イオの呟きは、夜の閑散とした雰囲気に飲み込まれて消えていった。