forget-me-not
サンドーネの朝。
砂色に統一された建物に朝日が眩しい。
イオとウルドは多くの商店が軒を連ねる商店街を歩いていた。
「わぁーっ。
美味しそうな食べ物がいっぱい。
ねぇウルド、何食べる?」
イオはウルドの手を握り、ご機嫌な様子だ。
鼻歌まで歌う始末。
「あー、俺はちょっと遠慮しとく。
朝早いし……」
イオに手を振り回されながら、元気なさげに呟くウルド。
朝に弱いウルドは怠そうにしている。
苦手な人混み、しかも早朝。ウルドにとって最悪の環境だ。
「もう俺、倒れそう…」
大きくふらつくウルドの身体。
元から白い肌は、まだ低い太陽の下、いつもよりも不健康そうに見えた。
「ぇええ?
……ウ、ウルド、大丈夫?」
なんとかイオが支えるが、ウルドはもう限界のようだ。
「ウルド、ちょっと休もうか」
イオの提案に、ウルドは申し訳なさそうに、力なくうなだれた。
「イオ、ごめん…。
俺はさっき通った広場のベンチで休んでるから、買い物を続けてくれ…」
“さっき通った広場”とは、二人が商店街に行く途中にあった広場のことだ。
ベンチと簡素な噴水しかない小さな広場。
「そっか…。わかったよ。
広場まで大丈夫?」
目の前にはイオの心配そうな顔。
「ああ、大丈夫」
ウルドは辛そうに言葉を紡ぐと、広場へ向かい歩きだした。
まだ早朝で人がいくらか少ないのが幸いだ。包帯で視界が悪い今でも、難なく歩くことができる。
人の波に逆らい、広場を目指す。
「ウルド…大丈夫かな?」
不安げにイオは、まだ少しふらつくウルドの後ろ姿を見送った。