forget-me-not


申し訳程度の噴水の音。
頼りないその姿はまるで今の自分のように思えてきて嫌だった。


ベンチに腰掛け、ウルドは空を見上げた。

憎らしいほど、澄み渡った碧空。
益々具合が悪くなりそうだ。



「……」


込み上げてくるもやもやとした気持ちに、ウルドは空を仰ぐのをやめにした。



ただ、広場から見える騒がしくなってきた商店街を遠巻きに眺める。

徐々に増してくる人の数。あの人混みの中にイオがいると考えると、なんとなく不安だった。





ふいに町に響き渡る神聖な音。温かく、包み込むようなその旋律にウルドは俯いていた顔を上げる。


鐘の音だ…。
どこか教会があるのだろう。



(あぁ、この神聖な感じ…苦手だ。
まるで神獣の神殿で感じたような)


再び俯くウルドは神々しい雰囲気が駄目だった。
神聖な力が、全身を蝕む毒のように感じられるからだ。

それは、自分が聖なる存在とは真逆の存在であるということの証明。







「……っ」


ふと嫌な視線を感じた。
殺気のような、鋭い気配。



「―――誰だ…」


ウルドは警戒しながら、気配の主を探した。
低く、地を這うようなその声は殺意を帯びている。イオの前では決して見せない一面。





近づいてくるざくざくと砂利を踏むような足音。

ウルドは大鎌を手に、気配のする方を睨み付けた。




「――やけに目立つ金髪に、その大鎌……。

やはり貴様か」


冷たく、貶すような声。


ウルドの視線の先…。
長身の男が、ウルドを皮肉るように唇を歪めていた。



殺意を含んだ、蔑むような瞳は澄み渡る空の色。
光を集めて輝く、短すぎず長すぎない白銀の髪。

背中に背負う、大振りな剣が殺意を表しているようだ。




「お前……っ」


静かに口を開くウルドの瞳は穏やかではない。
鎌を握る手に力が籠もる。


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