forget-me-not
いくらか賑やかになった広場に明るい人々の声が響く。
居心地の悪さを感じながらも、ウルドはただイオの帰りを待った。
「ウルドーっ。遅くなってごめんね」
聞き慣れた明るい声に顔を上げれば、軽く息を切らすイオの笑顔。
「イオ……」
イオの屈託のない笑顔は、ウルドの不安定な心を救う…。
イオだけは自分を人として扱ってくれる。
イオだけは…。
「どうしたの…ウルド?
なんだか悲しそうな顔…」
ウルドの普段と違う雰囲気。悲しそうに、淋しそうに自分を見つめるウルドに、イオの心は痛んだ。
包帯に隠れた瞳に、映る哀愁の色。
「―――何でもない」
ウルドの返事はどこか素っ気ない。
当たり前だ。
先程の出来事をイオに話せるわけがない。
今のウルドにはこの返事で精一杯だった。
「でも……」
「ほら、そんなことより買い物はどうだったんだ?」
イオの心配する声を遮り、ウルドは話を変える。
無理に明るく振る舞おうとするウルド。
(口下手なウルドが誤魔化そうとしてる…。
よっぽど触れられたくない話題なのかな?)
イオはそんなウルドの気持ちを察して、深く追及はしないことにした。
「買い物はねー、凄く楽しかったよ。
ウルドも来ればよかったのに」
イオの人懐っこい表情。深緑の瞳がきらきらと光る。
両手いっぱいの買い物袋が証明だ。
「そうか。俺も行けばよかったかもな…」
イオと一緒に買い物をしていたなら、男に出会うこともなかった。あんな悲しい思い、しなくて済んだのに…。
ウルドは苦し紛れのように小さく笑った。
「―――あ、そう言えばね。
お店の人から聞いたんだけど…、サンドーネには有名な“幽霊屋敷”があるんだってよ」
聞いたことのないフレーズに、ウルドは小さく首を傾げる。
「“幽霊屋敷”って…?」
ウルドの微笑ましい仕草に、イオは思わず目を細めた。