forget-me-not


「えっとねー。話によると、町の外れにぽつんと建ってる古い洋館らしい。

昼間でも真っ暗で、一度入り込んだら二度と帰ってこられない…。
町の人も怖がって近寄らないんだって」


イオはわざとらしく身体を震わせ、怖い怖いとはしゃぐ。


「へぇ…。この町にはそんな物騒な建物があるんだな」


どこか的外れなウルドの返答に、イオはやれやれと肩を竦める。


「はぁ…駄目駄目だよ、ウルド。そこはもっと怖がってよー」


イオからの駄目だしに、ウルドは些かショックを受ける。


「えぇ…っ?
俺、幽霊なんて見たことないし…」

ウルドが遠慮がちに発言するも、イオの雰囲気に押され、口籠もってしまう。



悪戯に頬笑むイオに、ウルドは嫌な予感を覚えた。

これは、絶対に何か企んでいる…。



「ふーん…。ウルドは幽霊を信じてないわけかぁ。

――じゃあさ、実際見たら信じるよね?」


嫌な予感は見事に的中…。イオに逆らえないウルドは小さく頷く。



「よーし。じゃあ決まりだね。
“幽霊屋敷”を探検しようっ」


一気にテンションの上がるイオ。
ウルドに満面の笑みを向けながらガッツポーズを決める。


「はははは…。
イオ、どうか無茶だけはしないでくれよ…」


控えめに笑うウルドの願いは切実なものだ。


ウルドは、別に幽霊など怖くない。
幽霊よりも、イオが傷付くことの方がよっぽど怖いことだ。



「ウルドってば過保護なんだから…。

大丈夫だよ。私たちの辞書に不可能の文字はないっ。

さあ、出発ー」


イオが張り切れば張り切るほど、ウルドの不安は増すのだった。



(――イオのその自信は一体どこから湧いてくるんだ…?)


ウルドは小さく溜息をつきイオを一瞥する…が、イオの姿はすでにない。



「え…、もう歩きだしたのか?」


イオの行動の早さには脱帽だ。
ウルドは、急いでイオを追い、走りだした。


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