forget-me-not
「あー。ウルドおはよう」
イオは時計塔にもたれて俯いているウルドの姿を見つけ、手を振り駆け寄った。
顔を上げたウルドは昨日と変わらない優しげな表情でイオを見る。
「イオは朝から元気がいいな…」
朝に弱いのか、ウルドは少し顔色が悪い。
「朝…弱いの?」
心配するようにイオはウルドの顔を覗きこむ。
しかし、ウルドは恥ずかしがるようにすぐ外方を向いてしまう。
その仕草が可愛らしくてイオは何回もウルドの顔を覗いた。
「あ、あまり俺を見ないでくれ…。
それに、朝に弱いというよりは人混みが苦手なだけ。だからずっと俯いてた」
困ったように言うウルドにイオは形だけ謝る。
「ごめんねっ。
ウルドは人混みが嫌なんだね。俯いてるなんて勿体ないなあ…顔整ってるのに」
イオはにんまりとする。
しかしウルドは苦い表情でまた俯いてしまう。
「あぁー。ウルド言ってる傍から…。
もっと笑いなよ、ね?」
「………人に馴れたら」
ぼそっと呟くウルド。
意味深な言葉だった。
「んー。じゃあこの旅の中で笑えるように私がサポートします」
イオは嬉しそうに時計塔を見上げた。
古ぼけた文字盤が妙に落ち着きを放つ。旅立ちの空はどこまでも青く澄んで、全てを包み込んでいた。
「旅立ちに相応しい空だね。青くて、優しくて…。
ウルドのくれたネックレスみたいな青」
空を見上げるイオに習い、ウルドも俯いていた顔を上げる。
美しい金髪が光を集めて透けるように輝く様は天使にさえ見えた。
「…そうだな。
………もう行くか?」
ウルドの紅の瞳がイオを捉える。