forget-me-not



噂の“幽霊屋敷”の探索…。


錆びついた門を通り過ぎ、もうずっと手入れをされていないような荒れ放題の庭を歩く二人…。

伸びた雑草の合間から、奇妙な石像が見え隠れするのが何とも気味が悪い。


「――悪趣味な石像…」

イオの呟きに、隣を歩くウルドも賛同する。

「ああ…。随分と不気味な生物をかたどっているようだな」


ギョロリとした目玉、嘴のような口から覗く鋭い牙、今にも羽ばたきそうな翼…。


(幼い頃に読んだ絵本に出てきた怪物の姿にそっくり…)

イオは石像を横目に、そんなことを思ったのだった。




やがて、見えてきたのは屋敷の玄関の扉…。

観音開きの木材と金属からなる大きな扉だった。
古めかしい作りに装飾…。


「――よし、開けてみよう…」


イオが試しに扉をぐっと押す。

ウルドが見守る中、扉は鈍い音を立てながらゆっくりと開かれた。


「驚いたな…。開いているなんて……」

ウルドは感心したのか、しきりに頷いた。
まさか鍵がかかっていないなんて思わなかったのだ。





「やっぱり暗いね…」


開け放った扉の向こうには闇…。
飲み込まれそうな漆黒が、屋敷から漏れだしてくる。
一寸先は暗い闇の世界。


イオは少し不安になってウルドの方を見た。

ウルドは包帯を顔に巻かれたまま、屋敷の中の暗闇を見つめていた…。



「――あ、そういやウルド。まだ包帯したままだったね。

今取るから…」



てきぱきとイオによって解かれるウルドの包帯…。


「あー、やっと視界が開けた…」


露になったウルドの魔性の紅眼は、暗闇によく映える。



「えっと…。
真っ暗な中探検するのは怖いと思いまして…。

用意周到な私はしっかりと灯りを持ってきたのですっ」


イオは得意気に松明を取出し、火を点けた。
燃え盛る松明の炎が辺りを照らす。


「はい、ウルドの分」

ウルドはイオに松明を渡された。


別に暗闇でも目がきくウルドに松明は必要ない。
それは恐らくイオもわかっているだろう。

それでも松明をくれたのは、イオがウルドを人として扱っている証拠。


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