forget-me-not
「頼りない…のか、俺は」
ウルドはがっくりと肩を落とし、うなだれながら階段を登る。
床と同じく大理石でできた階段。高貴なワインレッドの絨毯を踏みしめながら歩く。
「そんな気を落とすことないよっ。
ウルドがピンチになったら私がウルドを守ってあげるから」
愛用の剣をかしゃんと鳴らし、胸を張るイオに、ウルドは複雑な気持ちになってしまう。
「普通、俺がイオを守る立場なんじゃないのか…?」
「気にしない、気にしない。
あっ、見えてきたよ。
あの甲冑が持ってる槍って本物かな?」
松明で辺りを照らし探検家気分のイオは、ウルドの手を握ったままどんどん階段を登る。
「イオ、あまりはしゃぐなよ…」
ウルドの注意も余所に、イオは無防備にも甲冑に近づいた。
「――危ないっ」
聞こえた声。
離れた手。
自分の盾になるように目の前に飛び出してきた、見慣れた白金の髪。
刹那、金属の交わる鋭い音が耳をつんざいた。
「――ウ…ルド?」
絞りだすようなイオの声。立ちすくむことしかできないイオの緑眼に映った光景…。
それは、二体の甲冑が放った槍の攻撃を、闇に光る大鎌で受けとめているウルドの後ろ姿だった。
「か、甲冑が……」
甲冑が動いている。
意志を持っているかのように、槍を繰り出している。
イオはあまりの驚愕に狼狽えるが、すぐに剣を抜き、構えた。
「ウルド、私も戦うっ」
イオの声に一瞬振り返ったウルドの顔は、もうへたれな表情などではなかった。
「わかった…。
でもその前に、松明をどうにかしてくれないか?
片手じゃ少し辛い…」
松明を持っているため、今ウルドは片手で甲冑の攻撃を何とか凌いでいる状態。
「あっ、うん。
わかった」
イオはウルドから松明を受け取ると、暗い室内を見渡す。
“あった!”
イオが見つけたのは、蝋燭を置くための台。
今では誰も使うことのないそれには、小さくなった古い蝋燭が残っていた。
小さな蝋燭をさっと退かし、代わりに松明を設置したイオは、剣を握り直しウルドの加勢に回った。