forget-me-not

言った傍からまずいと思ったウルドは、そっとイオの様子を伺ってみる…。


すると、自信のないウルドの紅の瞳に飛び込んできたのは、なんとイオの弾けるように輝く表情。

予想外の展開にウルドは呆気にとられ、言葉を失ってしまう。



「ウルド、やっぱり幽霊って凄いね。私たちを守ってくれたんだよ、きっと」


キラキラとしたイオの深緑の瞳に見つめられ、ウルドは複雑な気持ちを抱きながらも照れ隠しに小さく笑った。



「やばいーっ。その幽霊さんに会いたい。会ってお礼を言いたいよね?」


喜びを噛み締めるイオはウルドに同意を求める。



“実際は幽霊じゃなくて、俺なんだよな…”


そんな真実、口が裂けても言えないウルドは、控えめに頷いて同意を示す。



「だよね、だよねっ?

やっぱり私たち、気が合うなぁ」



イオは満足そうにウルドを一瞥し、扉に手をかけた。

それは、もちろん先程まで甲冑によって守られていた扉…。




「イオ、まだ先へ進むのか?」


明らかに乗り気でないウルドの問いに、イオはふわりと振り返る。



「行こうよ、せっかく来たんだしさ。

それに屋敷の幽霊も味方してくれてるみたいだし」


人差し指を立て、張り切るイオ。




“ああ……俺がついた嘘のせいでこんなことに”


ウルドは自分の下手な嘘を後悔した。


屋敷の主は明らかにこの扉の先に自分たちが立ち入ることを快く思わないだろう。
そうでなければ、甲冑などに扉を守らせたりはしない。




「イオ、何だか嫌な予感がする…気を付けて」


もう引き下がるわけがないイオに、ウルドはそう声をかけるのが精一杯だ。


「ウルドは過保護だなー。
何かあってもまた幽霊が助けてくれるよ」


期待に胸を踊らせ、イオはウルドの手を握った。
仄かに紅潮するウルドの白い頬。


「それじゃあ突入ー」


室内の不気味な雰囲気にそぐわないイオの明るい掛け声。


開かれた扉の奥へと、二人は吸い込まれるように足を踏み入れた…。


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