forget-me-not
5
二人が何とか幽霊屋敷を脱出した頃には、もう日が落ちかけていた。
時の流れを感じさせない幽霊屋敷…。まさかそんなに時間が経っていたなんて驚きだ。
そのあと二人は特に言葉を交わさず、流れるまま昨日泊まった宿に泊まることにしたのだった。
そして今に至る…。
「―――ウルド」
尋常ではない気まずさの中、勇気を振り絞りイオは、離れた隣のベッドに座りこちらに背を向けるウルドに喋りかける。
「―――何?」
ウルドはイオを見ないまま、暗く返事をした。
すっかり心を閉ざしてしまったようで、イオは堪らなく悲しくなる。目の奥がつんとする。
「私…ウルドを傷付けたよね。
ごめんなさい…。
ウルドのこと恐いだなんて…私最低だ。
ウルドは私のたった一人の仲間なのに…」
次から次へと溢れてくる涙。泣き虫な自分に嫌気がする。
相変わらずイオに背を向けるウルドからは、何の表情も読み取れない。
「――イオ、君は優しいんだな…」
静かに部屋に響くウルドの声。
儚く悲しいその言葉に、ウルドはどんな思いを乗せたのか…。
「私が優しいだなんて、嘘。
優しいのはウルドの方でしょ?
いつもウルドは私の我が儘聞いてくれるし、私を助けてくれるっ」
イオはウルドの背中に思いっきり叫んだ。涙で視界が揺らぐ。
しかし、心を閉ざした淋しい背中は何も語らない。
布団に包まり、動かないウルドの後ろ姿。
「ウルドぉ……」
流れる涙は留まることを知らない。とめどなく溢れて、ベッドに染みを作る。
「ううぅ………。
わ、私…最低だ……」
嗚咽まじりのイオの泣き声は、ウルドの耳に痛いほどに響いた。