forget-me-not









二人が何とか幽霊屋敷を脱出した頃には、もう日が落ちかけていた。
時の流れを感じさせない幽霊屋敷…。まさかそんなに時間が経っていたなんて驚きだ。


そのあと二人は特に言葉を交わさず、流れるまま昨日泊まった宿に泊まることにしたのだった。


そして今に至る…。




「―――ウルド」

尋常ではない気まずさの中、勇気を振り絞りイオは、離れた隣のベッドに座りこちらに背を向けるウルドに喋りかける。



「―――何?」

ウルドはイオを見ないまま、暗く返事をした。

すっかり心を閉ざしてしまったようで、イオは堪らなく悲しくなる。目の奥がつんとする。




「私…ウルドを傷付けたよね。

ごめんなさい…。
ウルドのこと恐いだなんて…私最低だ。

ウルドは私のたった一人の仲間なのに…」


次から次へと溢れてくる涙。泣き虫な自分に嫌気がする。



相変わらずイオに背を向けるウルドからは、何の表情も読み取れない。




「――イオ、君は優しいんだな…」


静かに部屋に響くウルドの声。
儚く悲しいその言葉に、ウルドはどんな思いを乗せたのか…。



「私が優しいだなんて、嘘。
優しいのはウルドの方でしょ?

いつもウルドは私の我が儘聞いてくれるし、私を助けてくれるっ」


イオはウルドの背中に思いっきり叫んだ。涙で視界が揺らぐ。



しかし、心を閉ざした淋しい背中は何も語らない。
布団に包まり、動かないウルドの後ろ姿。




「ウルドぉ……」


流れる涙は留まることを知らない。とめどなく溢れて、ベッドに染みを作る。



「ううぅ………。
わ、私…最低だ……」


嗚咽まじりのイオの泣き声は、ウルドの耳に痛いほどに響いた。






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