forget-me-not


「そうだね、出発しよう」

言うが早いが、町の門に向かい駆け出すイオ。
小柄故の足の速さにウルドはただ遠ざかっていくイオを見送ることしかできなかった。




「…イ、イオ?」


走り去ってしまったイオを追うべく、柄にもなくウルドは全力で走る羽目に。



普段は人目を気にするあまり、大胆な行動はしないのだが、何故か今だけはそんなこと気にならなかった。




「不思議だ…。イオといると俺が俺らしくなくなる。
本当にイオは俺を変えてくれるかもしれない」



一人呟いたウルドの言葉は当然イオに届くはずもなく…。

少し遠くの方でイオは何も知らずに一生懸命に手を振っている。




純粋無垢な少女イオ。
直向きで屈託のない笑みを浮かべ、ウルドを待っている。




自分を拒絶しない人間イオと触れ、ウルドの氷の様な心はいつの間にか溶け始めているようだ。



「今行く…」


再び走りだすウルドの表情はとても穏やかだった。








旅立ちの空。
この必然的な出会い。

どこまでも続く空はこの旅立ちを祝福する。






世界の片隅で始まる物語。
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