forget-me-not
やけに長く感じる夜…。
出会ったあの日から、すれ違ったのは初めてのことだった。
もう泣き疲れて眠ってしまったのか、イオの嗚咽はいつの間にかぴたりと止んでいた。
「――イオ、ごめん…」
小さく溢すウルドの頭の中では、ずっとイオの言葉たちが反響していた。
「ごめん…俺はイオを傷つけることしかできない…」
ゆっくりと立ち上がったウルドは、イオのもとへと歩み寄ろうと一歩足を踏み出す…。
しかし、その時ウルドを久しぶりにあの動悸が襲った。
「―――っ」
苦しさに顔を歪ませ、膝から崩れ落ちるウルド。
以前の比ではない発作。
あまりの辛さに、目が霞んでくる。
熱を持ち、疼く背中。
少しでも気を抜けば、魔に堕ちてしまいそうで恐ろしかった。
「――あ゛ああぁぁああああ…。
や、やめろ…嫌だ……。俺はまだ……」
目を見開き、声にならない叫びが谺する。
月明かりの下、ウルドの瞳はぎらぎらと魔物の眼光を放つ。
その姿はまさに月に吠える魔物のよう。
「駄目…駄目だ……」
床を這い、咳き込みながらも何とかイオのもとへと辿り着く。
霞む視線の先に映るイオの寝顔…。まだ涙の伝った跡が残っていた。
「イ、オ………」
ずっと、ずっと大好きだった人間の少女。
イオの眩しい笑顔が堪らなく愛しかった。
きらきらと笑い、何度も自分の名を呼んでくれた大切な君…。
「――そうだよな…俺は恐ろしいよな…。
俺みたいな化け物は、君を守る騎士にはなれない」
自嘲気味に笑うウルドの表情。
幾分治まった動悸の波に、荒れた呼吸を沈める。
「―――あ、れ…?」
まだ肩で息をするウルドの瞳に映ったのは、イオの左手がぎゅっと握り締めている青い小さな宝石のついたネックレス…。
これはあの夜、ウルドがイオにあげたものだった。