forget-me-not
窓から射し込む朝日に、イオは重たい瞼を上げる…。
寝呆け眼、まだ上手く働かないイオの頭に甦ってきたのは昨日の出来事…。
無意識のうちに左手にぎゅっと握り締めていた青い宝石のネックレスで、全てを思い出した。
「――ウルド…。
そうだ、昨日ウルドにひどいことを……」
逸る気持ちに、視線を移した隣のベッド…。
しかし、そこに見慣れたウルドの姿はない。
「ウルド…?
どこ?」
昨日の今日だ。
イオは不安になり、部屋中ウルドを捜し回った。
ウルドの鎌もない。
ウルドの上着の黒いロングコートもない。
ただ、ウルドのベッドの側に設置された申し訳程度の小さなテーブルの上に、小細工に仕様したあの包帯が綺麗に畳まれた状態で置いてあった。
几帳面なウルドのことだ。自分で畳んで置いたのだろう。
昨夜泣きすぎて枯れたと思われた涙が、また溢れてくる。
いつもと変わらない朝。ウルドの姿だけが足りない。
いつもウルドが隣にいた。
ウルドと見た世界は、鮮やかに目まぐるしく色を変えて輝いていたのに。
一人、見る世界は灰色だった。
空虚なモノクロに、色や輝きは一気に飲み込まれてしまった。
ウルドはたった一人の仲間。自分を独りの海から助けてくれた、孤独からの救世主だった。
なのに、なのに…。
自分が放った一言で、全てが壊れてしまうなんて。
永遠を願った幸せの終焉が、こんなにも早く訪れてしまうだなんて。
愚かな自分。
モノクロの世界に、また独りぼっち。
失ったものはあまりに大きすぎた…。
「――ウルドが、いなくなっちゃった…」
言い様のない悲しみの波。
大切に握り締める小さな青い宝石がついたネックレス。
ウルドがくれた宝物。
「―――ねぇ、あなたはウルドの居場所を知ってる?」
青い宝石に話し掛けても、当たり前だ…何も言葉は返って来ない。
泣き腫らした目をした、ひどい顔の自分が映るだけだった。