forget-me-not

降りしきる雨。
どんよりとした空を見上げ少女イオは不安げに表情を歪める。

栗色の髪は肩にかかる程。澄んだ深緑色の瞳には若干疲れの色が見える。



「はぁ…。雨って嫌いだなぁ」


この天気の所為か人が疎らな町はどこか淋しい印象を受ける。


鼻につく雨の匂い。
いつまで雨宿りは続くのやら。イオは一人、町の広場の大きな木にもたれ、溜息混じりに辺りを見回す。



「あれ…?向こうの木にも雨宿りしてる人がいる」


イオが見つめる先には一人の男。黒いロングコートに身を包んだその人は細身で長身。そして薄暗い景色の中でやけに目立つ、色素の薄い金髪。


その人はずっと俯いているようでイオに気付いていないようだ。



「あの人も旅人なのかな」

特にすることもないのでイオは男の様子を伺った。



俯いたままあまり目立った動きを見せない男は、まるで眠っているかのようだった。



「不思議な人…」


イオが呟いたその時、一陣の風が吹いた。



「うわっ…」

顔に雨がかかり、驚いたイオが声を上げる。



その声に反応し、おもむろに顔を上げた男と目が合った。




血の如く紅に光る瞳。
端正で色白な顔立ちによく映えている。

男の姿はこの雨の中、幻想的で人間離れした何かを感じさせる。



交わる緑と紅の視線。
イオの姿を見た男は何か呟くように口を動かした。


「…?」

雨の音に紛れ、イオに声は届かない。




“見つけた。イオ”




互いの視線を交わしたまま、時間だけが過ぎていった。
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