forget-me-not
「俺は…たぶんイオの前だから素が出せるんだ。
なんだかありがとう」
そこまで言うとウルドはまたパンを頬張る。
きっとパンが好きなのだろう。どこか幸せそうに口をもぐもぐする姿がそれを物語っている。
「なんだかどういたしまして。
私もウルドの素が見れて嬉しいや」
イオもウルドに負けじとパンを頬張った。
口の中に広がるジャムの味…。隣に誰かがいることの温かさ。
今まで知らなかった仲間がいるという温かさ。
そして改めて感じた一人の孤独の心細さ。
ちらりとウルドを見やると、食べ掛けのパンを片手にじっと薪の炎を見つめていた。
穏やかな表情で一体何を考えているのか…。
イオにはそれを知る術はない。
それでもこれだけはわかるのだ。
ウルドも自分と同じように幸せに浸っているのだと。
夜空にぽっかり浮かんだ朧気な月灯り。
幸せそうな二人を包み込む優しい夜の闇。
いつまでもそこに存在しているかのように、寝床についた二人の姿をずっと見守っていた。
魔物避けの薪は未だ、しっかりと燃え続けきちんとその役割を果たしていた。