forget-me-not
二人が村、ハノエラに着いたのはお昼過ぎだった。
本当ならもう少し早く着く予定だったのだが、やはり広い森……、道に迷ってしまったのだ。
疲れた表情のウルドの隣、やはりあの少女は一人はしゃいでいた。
「ねぇねぇウルド、綺麗な建物があるよー。
ほら見てっ。可愛い装飾品が売ってる」
深緑の瞳を光らせて、片っ端から興味のある物に反応を示す。
ウルドはイオの言葉に頷いてはいるものの、終始俯き加減で力なく村を歩いていた。
大雑把に巻いたストールはウルドの顔下半分程を隠している。
「―――ウルド?」
イオがウルドを心配して声をかけると、ウルドはおずおずと顔を上げた。
「心配いらない。別に具合が悪いとかそんなことじゃないから」
イオに小さく笑いかけると、また俯いてしまった。
長い睫毛が白い肌に影を落とす。
(仕方ないよね…。ウルドは人にどう見られるか気にしちゃうから)
イオはウルドの手をぎゅっと握った。
伝わるウルドの体温は冷たい。
「イオ…」
振り返ったウルドの表情は不安気に見えた。
自分が支えてあげなくちゃ…。
イオはウルドを安心させるべく眩しいくらいの笑顔を浮かべる。
「大丈夫。
ウルドのことは私が守るからねっ。
だから昨日みたいに明るいウルドでいてよ」
ウルドは一瞬驚いたように目を見開いて、ふっと笑った。
「――俺がイオを守るとか言っておきながらごめん。
でも嬉しいよ」
ウルドは意を決してしっかりと村を見渡した。
木造の小さめな建物が立ち並ぶ村。
畑が多く、閑かな場所。
旅人も多く立ち寄る場所なのか、すれ違う人の波の中に旅人らしき風貌の人も多く見られる。
「ああ…。イオの言う通り綺麗な建物が立ち並ぶ素敵な村だな」
ウルドは静かに瞳を閉じた。