forget-me-not
「差別?
そんなものありませんよ。
このハノエラは平和な村です。人間と人間じゃない者たちが互いに手を取り合って生活しています。
実は私の大切な人も魔物の血をひいてるんです」
幸せそうに話す商人。
ウルドは今日驚くことばかりだ。
差別のない場所があるなんて始めて知った。
そんなウルドの隣でイオは商人の話に感激している模様。
「素敵な話ですねっ。感激しました」
再びイオと商人の世間話は盛り上がる。
口下手なウルドは二人の話に入れずに、またうなだれる始末。
「じゃあもう行こうか」
イオがウルドに声をかけるまで、ウルドはずっとつまらなそうにしていた。
「ごめんね、ウルド。つい夢中で話しちゃった」
可愛い顔して謝ってくるイオを責めることすらできない自分を、ウルドは我ながらへたれな奴だと思った。
「さよなら、よかったらまた来てね」
遠ざかる商人の声にイオは何度も振り返り手を振る。
旅に出会いと別れは付き物だ。
今まで幾つもの出会い別れを体験してきたイオは、仕方ないことだと割り切って考えることにしている。
「ウルド、この村ならちゃんと前を向いて歩けるね」
すれ違う人間じゃない者たち。皆、普通に顔を上げて楽しげに歩いている。
そんな彼らを見てウルドも自然と表情が柔らぐ。
「そうか…そうだな。
この村なら容姿なんて気にする必要ないな」
ウルドの声と表情はいつになく明るい。
端正な顔立ちがより際立って輝いている。
「ウルドの苦手克服の日も近いかもねー」
いたずらに笑うイオはちょんちょんとウルドの背中をつつく。
細身なのに意外と筋肉もあったりで、イオは驚いた。男では絶対に華奢な方だと思っていたのに、案外そうでもないようだ。
「イオ、くすぐったい…」
ウルドの情けない声にイオは軽く謝りながら、とびきりの笑みを浮かべた。