forget-me-not
「あっ…そうだ。
ウルド、耳たぶっ」
イオの突然の大声に驚いたウルド。
おずおずと耳を遮る髪を持ち上げた…。露になる耳。シンプルなシルバーのピアスが右耳にぶら下がっているのみ。
「あぁーやっぱり。
昼間のピアス付けてないじゃん」
イオはがっかりした様子。溜息まで吐いて、負のオーラを放つ。
狭い部屋が一気にどんより重くなった気がした。
イオを落胆させてしまい申し訳なさそうにするウルドは、昼間イオからもらったピアスを取り出した。
スペードは剣をかたどったマークだとよく言われる。騎士の意味が込められているらしい。
自分は騎士じゃない…。
むしろどちらかというと騎士に倒される側ではないか。
スペードの飾りを見て、ウルドは自嘲するように笑った。
ピアスホールはすでに開いている。
不器用にも、何とかピアスを身に付けることに成功。
左耳に光る愛しいプレゼント。
イオの右耳で輝きを放つハートのピアスと対になっている。
アクセサリーはあまり好まないウルドだが、イオがくれた物だからと身につけたのだ。
イオは単純だ…。
何より自分の心に忠実。
嬉しいときはとことん喜び、悲しいときは素直に涙を流す。
ほら、また笑顔になった。
いつか眩しいこの笑顔を自分の手で壊してしまうのか…。
今は考えたくなかった。
「ウルド似合ってるよ。
明日は遺跡探検だから、早めに寝ようか」
「私こっちのベット〜」
イオは扉から向かって右側のベットへ豪快にダイブ。
子供のように無邪気。
ウルドは微笑ましくその様子を見ていた。
「おやすみ」
それっきり部屋に言葉が紡がれることはなかった。
変わりに安らかな寝息が静寂の中にゆらり溶けていった。