forget-me-not
3
訪問者を迎える、石で出来た彫刻。蔦が絡み付き、凄い有様。
恐らくここに祀られている“神獣”をかたどったものなのだろう。
さすが森を司る神獣の神殿だ…。色鮮やかな植物が主を護るかのように咲き誇っていた。
草木が邪魔して中々入り口に辿り着けない。
「うっわー。これは想像以上…」
イオは神殿のあまりの荒れように声を上げずにはいられなかった。
「これじゃ村人もそう近づかないな…。
この辺り、何となく空気が違う」
ウルドもイオに賛同。
荒れ放題荒れているのだが、神聖な雰囲気を失っていないこの場の空気に圧倒されていた。
ウルドは、本当に行くのか?とイオに目でサインを送る。
もしも神殿内でずば抜けて強力な魔物に出会ってしまった場合、イオをしっかり守れる保証はない。
「ん?そんな心配そうな顔しないっ。
二人で力を合わせれば大丈夫だよ」
その自信は一体どこからくるのだろう…。
ウルドはイオに聞こえないくらいの小さな溜息をついた。
「よし、潜入開始」
明るいイオの合図に、二人は互いの武器を構えた。
イオは不思議な彫刻の施された剣を、ウルドは死神の持つような大鎌を。
二人は入り口までの草木を凪ぎ払いながら進む。
地道すぎる作業…。
「草刈り…というか奉仕作業だ。
俺の場合特に……」
ウルドは自らの持つ鎌を一瞥し、また溜息。
イオを見ると草刈りを存分に楽しんでいるようで、剣を思う存分振り回している。
ウルドにイオ程素直に暴れるようなことはできない。
しゃがみこんだウルドは鎌の柄を短く持ち、まさに草刈りの如く地道に作業する…。
「炎で焼き払った方が絶対早いだろうに…」
そうは呟くものの、ウルドは草刈りを続ける。
あまりイオの前で、術を使うのはよくない。
それは人間には使えない力だから…。
二人が入り口に辿り着く頃、もう太陽は空たかく輝きを増していた。