forget-me-not
生い茂る草木の奥には、もう何十年も何百年もそこに存在していたような趣のある入り口が二人を待ち構えていた。
二人がここに訪れることを知っていたかのように、暗い神殿の奥から誘うような生温い風が吹いている。
祠る人が来なくなっても、神聖な雰囲気は未だ健在のようだ。
ウルドは先程から、もやもやとした居心地の悪さを感じていた。
それはイオも同じようで、剣を強く握り締めていた。
今更退くつもりはない。
前進あるのみ。
重い空気の中、前に出ることを躊躇する足に鞭打ち、二人寄り添い神殿に入っていく。
足元の石畳に響くブーツの乾いた音。
暗い神殿内を照らす松明の鈍い灯り。
気の遠くなるような長い年月をかけ、遺跡と呼ばれるような程荒れ果ててしまった理由は何なのだろう。
壁にはまだ奇妙な壁画が残っているし、蔦は這っているが歩けない程ではない。
この奥に実際にウェリムーザが居るような気すらしてくるこの雰囲気。
生温い空気は肌にまとわり付き気持ちが悪い…。
「気を引き締めなきゃね。噂が本当なら馬鹿みたいに強い敵がうじゃうじゃいるから…」
「ああ、わかってる」
落ち着いた声のウルドが今はクールに見える。
いつものへたれじゃないウルドは普通に格好いいとイオは思う。少し冷酷で残忍な気がするが。
息を殺し、二人鼓動を合わせる。
いつ攻撃されても大丈夫なように武器を構えながら。
少しの油断も許されない。松明の灯りを頼りに、静かに確実に前へと進む。
少しは奥へと来たのだろうか、広いとは言えない通路の両端に向かい合うように置かれた大蛇のオブジェが現れ始める。
顎が外れんばかりに口を開く二つのオブジェ。
「ちょっと不気味…」
イオは小さく呟く。
石でできたそれは、光の籠もらない石の瞳で来る者を監視しているように見えた。