forget-me-not
まず一枚目の壁に描かれた場面。
沢山の草木に囲まれたウェリムーザと人間たちが仲良さそうに身を寄せあっているという内容。
明るい雰囲気のこの壁画は、大きく偉大な太陽が描かれている。
二枚目は一枚目と打って変わり、波乱を表しているようだった。
ウェリムーザはその身に矢を受けながら、苦しそうに激しくうねっているという内容。
太陽などなく、炎がウェリムーザの森を焼き払っている様子が描かれている。
三枚目は全体的に寂しげな印象を受ける。
ウェリムーザが高く伸び上がり、嵐を呼び起こしているようだ。
降りしきる雨嵐の中、心優しき神獣の嘆きが聞こえてきそうな壁画。
最後の一枚は焼き払われた森の残骸の場面。
淋しくなった森で力なく横たわるウェリムーザの周りに若い草木が芽を出している壁画。
「何なんだこれは…」
ウルドは昔この地で何があったか知る術をもたない。
ただこの壁画が物語る歴史は、虚構などないと直感で感じた。
これは作り話?
単なるお伽噺?
否、そんなはずはない。
これが嘘ならば何故、ただの絵にここまで釘付けになるだろうか。惹き付けられるだろうか。
壁画に圧倒され、ウルドは息を飲んだ。
「―――壁画の瞳の窪みにはめるものといったら…オブジェの瞳の宝石くらいしか……。
イオ、宝石は取り外せそうか?」
イオは早速挑戦してみる…。
宝石は小さなコイン程度の大きさ。
カチャカチャといじくると、案外簡単に外れた。
「ウルド外れたっ」
イオの嬉しそうな報告に、ウルドの表情も明るくなる。
これで大体の謎は解けた。しかし、まだ最後の難題が残っている…。
どの色の宝石をどの場面の窪みにはめるのか。
間違った選択はできればしたくない。
正解とは違う色の宝石をはめてしまうことで、突然広間の仕掛けが発動してしまう恐れだってある。
最後のヒントは壁に記された言葉。
あと少し、あと少しで道が開ける。
二人は高鳴る胸を押さえ、言葉の記された壁に歩み寄った。