forget-me-not

それぞれの思いを胸に、暗い階段の奥へ足を進める。
空気が、雰囲気がガラッと変わったのがわかった。



松明の灯りに頼り、下る階段は案外長い。イオとウルド、互いに手を握る。




「何だか恐いかも…。
ごめんね、言い出しっぺがこんなこと言って」


いつも元気なイオの後ろ向き発言など珍しい。
それほど此処の雰囲気は普通ではないのだろう。



ウルドも恐くない訳ではなかった。しかしイオを勇気付けるのが自分の役目だと気を奮った。



照れ屋な自分。
しかし、今は照れてなんかいられない。



「大丈夫だよ。二人一緒なら無敵なんだろ?」




柄にもなく笑顔なんて浮かべて、繋いだ手をきつく握り締めた。




ウルドの体温は冷たい。
爬虫類のようにひんやりとして、イオの体温の方が温かい。



「ウルドの手、ひんやりしてて気持ちいいね」


イオの誉め言葉にウルドはまた頬を赤らめる。幸い薄闇の中なので、イオに気付かれることはなかった。






長い長い階段。
ゆっくりと下ったその先は幾重の分かれ道だった。



“試練”では一人一人の心が試される。


どうやら早速此処から別行動のようだ。
誘うような闇の中、二人はそれぞれの進む道を決め、顔を見合わせた。


「絶対試練に打ち勝とうねっ。終わったらまた合流だから」



イオの笑顔は松明に照らされて優しく映った。
ウルドは少しどきっとしてしまう。



少し赤らんだ頬のまま、血を思わせる紅い瞳で、自分の選んだ道へと吸い込まれるように消えていくイオを眺めていた。







一人残された暗がり。
自分も行かなければ…。



恐いのは自分も同じ。自分のような者が神聖な者に認められるのだろうか。




しかし今更退くわけにはいかない。


唇を噛みしめ、息を整えると暗闇へと足を進めた。




松明など必要ない。
この忌々しい瞳は、明るみの中と同じくらい闇を鮮明にする。



便利だが、時に憎いこの体質。


自分はイオ達人間とは違う…化け物なんだ。
呪縛のように自分にまとわりつく不安の種。
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