forget-me-not
イオが眠りについた頃、あの男は同じ町の片隅で身を潜めていた。
すっかり雨の止んだ夜の町は静けさに包まれている。
闇夜に妖しく光る紅。
寂しげなその眼差しは、遥か昔に思いを馳せているように遠くを見つめていた。
「俺はイオに受け入れてもらえるだろうか…。
こんな化け物みたいな俺を拒絶しないでくれるだろうか……」
男は複雑な気持ちだった。今までずっと探していたイオを見つけたのに、何故か不安ばかりが頭を過る。
目を合わせたときのイオの表情が頭から離れない。
美しい深緑色の瞳に見えた不安と疲れの色。
男は色素の薄い金髪を軽く掻き上げ、空を見た。
雨雲が去った後の澄んだ夜空。瞬く小さな星たちが勇気をくれているような気がしてくる。
「よし…。もう行かなくちゃ」
男は暗闇に溶けるように夜の町へと消えていった。
ただ一人、何よりも求める少女のもとへ。
『狂おしい程に君を思う。
どうか気付いて下さい。
あの日の僕が今の俺だということに。
どうか気付かないで下さい。
俺の醜い本来の姿に。
君が忘れたあの日の記憶。俺が求めるあの日の面影。
いつか壊れてしまう俺の、最後の我儘を聞いてくれますか…?』
瞳を閉じる。
今まで自分を蝕んでいた深い闇が遠ざかるのがわかった。
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