forget-me-not


「お前に問いたい…。
お前は俺なんだろ?


だったら辛いはずだ…。

望みもしない恐ろしい力、人間とは言えない容姿をもって。


最愛の人に愛してもらえない。
自分は一体何者なんだって悩んで苦しんで…。




―――違うか?」





ウルドの紅の瞳に映る、目の前に立ちはだかる他でもない自分自身の姿。




明らかに動揺している瞳。一瞬揺らいだ紅は強がるようにぎらついた。





『―――違う…違うんだ、違うっ。



俺はお前みたいに甘くない…。
俺は――――』





自分の虚像は脱力したかのように大鎌を手放した。


俯き、肩を震わせているようだ…。









ウルドは己の弱さを見せ付けられているような気分だった。



己と向き合うことはそう簡単なことではない。
わかっていたが、ここまで胸が締め付けられる想いに駆られるなんて…。







暗い通路に沸々と鈍い灯りが灯る。




足元から半透明になっていく自らの幻影。
消えかけていく不完全な自分。

まるで陽炎のようにゆらゆらと揺れる。



『お前は強い心を持っている…。

だからお前なら運命を変えることができるかもしれない。


もう薄々感付いているだろう?身体の変化に…。




俺はお前みたいになりたかった。お前が羨ましいよ。


自分を見失うな…。どうか壊れてしまわないでくれ――』





蜃気楼のように。



消え際に一瞬、魔の虚像が笑った気がした。





自分の魔の部分はずっと悲鳴を上げていた。
人知れずずっとずっと…。


彼がいた場所には何も残されていない。
初めから何も存在してなかったかのように通路が続くだけ。







歩きだすウルド。

灯りは導いてくれる。
この神殿の主のもとへ。





「ウェリムーザ…。
見ているのか?」





その問に答える者はいなかった。
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