forget-me-not
カツーンカツーン…。
ブーツの音は規則的なリズムを奏でる。
松明の灯りだけじゃ先の見えない通路に響くこの靴音。
自分が奏でているというのに何故かそうじゃないような気がする。
イオは壁伝いに歩みを進めていた。
松明で照らさなければ暗闇の世界。
一人きりの孤独はイオを弱くする。
この状況で敵とどのように戦えばいいのか…。
両手にそれぞれ松明と剣。無駄な動きは許されない。
「――ウルド大丈夫かな」
ふいに口をついて出た言葉。大切な唯一の仲間は無事なのか…。
ウルドなら大丈夫。
そう無理矢理自分に言い聞かせるしか、今は仕方なかった。
「私が神殿に行こうだなんて言うから…」
ぐすっと鼻を啜る。
若干後悔していた。
此処へ来たことを。
自分が神殿に行きたいだなど言いださなければ、二人して意味の解らない試練を受けることもなかった。
宝だってない。
別に神獣に会ってどうする分けでもない。
「あーあ…。私何やってんだろ」
力なくぽつりと呟く。
しかしその声すらも闇に吸い込まれるようにして消えてしまう。
「――?」
突如足元の感触が変わった。
固い石畳だったものが、土のように柔らかい地面に。
恐る恐る足を進めて気付く空気の違い。
先程までの空気とは違い、温かく柔らかい。
不安、戸惑い、好奇心。
複雑な想いで足を進めるイオ。
知っている。
この薫り、この雰囲気。
懐かしい、記憶の扉が開きかけているようだ。
誘うような懐かしさ。
記憶の扉を開けることは案外容易い。
ほんの少しのきっかけがあればいい。
追憶。
重苦しい闇が晴れるのがわかる。
ふっと一瞬で目の前に広がる景色が変わった。