forget-me-not
暗い通路にぽつりぽつりと光が灯り始める。
導かれるように進んでいくイオ…。
不思議な気分のまま、長く続く通路を彷徨う。
思い返してみると、この旅はまだ始まったばかりなのに、随分と激しい内容だ。
今までに神獣などお目にかかる機会なんてなかった。一人旅をしていた頃、お宝を求めてよく神殿や遺跡に足を運んでいたが、いつも最深部に辿り着けなかった。
今考えてみると、隠し階段などの仕掛けがあったのかもしれない。
あの時もっとよく探索すればよかったと少し後悔した。
響く足音。
通路内で反響し、自分の存在を知らしめる。
おもむろに懐中時計を開き見た時間は、もう夕方になろうとしている。
思わず現実を忘れそうになっていた自分に驚いた。
試練がまるで夢物語のような昔物語だったからだろうか。
ウルドと自分は幼き日、出会ったことがある…。
それだけは理解した。
幼い頃の記憶はとても尊い。
今の自分の心の中核になっているものなのに、いつの間にか忘れてしまう。
あれは夢だったのかと自分で勝手に解釈してしまい、思い出せなくなる。
忘れるのは容易い。
思い出すのはなかなかできない。
そういうものだ…。
歩いて、歩いて。
灯火に導かれるように奥へ奥へ。
やがて通路の終わりが見えてくる。
長く寂しい通路の奥…。
扉だった。
茨をかたどったような彫刻が目を引く扉。
何年も、何百年も此処に存在していたというのに、何故か古めかしい感じがしない。
この奥が最後の広間…。
きっと神獣の持つ自然の力がいつまでも此処を美しく保っているのかもしれない。
「ウルドはもう来てるかな…?」
イオはゆっくりと扉に手を伸ばす。
指先に感じる不思議な感覚。
扉は音もなく開いた…。