forget-me-not
イオがウェリムーザに触れると、部屋が微かな光に包まれた。
ゆっくりと植物の塊が動く…ウェリムーザだ。
『汝…。よくぞ此処まで』
神々しい声。
イオはあまりの迫力にその場から動けなくなってしまった。
ウルドでさえ、ウェリムーザを前に動くことを忘れてしまったくらいだ。
『そう脅えるな…。我は外見ほど恐ろしいものではない』
ウェリムーザは静かにとぐろを巻いた。
どこかで嗅いだことのあるような花の香り…。
大蛇の纏う植物の香りだろうか。心が休まる気がした。
『汝ら…試練により、何か得たものはあったか?』
外見とは裏腹に、優しく語り掛けてくるウェリムーザ。
仕掛け部屋の壁画からも読み取れるように、人間が好きな神獣のようだ。
二人は神獣を前に、それぞれ試練のことを思い返した。
イオの試練は忘れていた過去の断片を思い出すことだった。
少しだけ、ウルドの秘密に近づいたような気がした。
一方のウルドは、自分の分身との対峙だった。
認めたくない現実を幾つも突き付けられ、相当苦しい思いをした。
しかし、これは運命に立ち向かう決意に繋がった。
試練で得たものはあまりに重く、大きなものだった。
ウェリムーザは全てお見通しであろう。
深く頷く二人に温かい視線を送っていた。
『――これから汝らはどうするつもりだ?』
神獣の言葉に、イオとウルドは顔を合わせた。
答えは自ずと決まっている。
「旅を続けます。
あてもなく、ただ導かれるままに」
イオが答えると、慈しむようにウェリムーザがそっと瞳を閉じた。
部屋が淡い緑色の光に包まれる。