forget-me-not
『命の翠
遥か遠き唄
大地は潤い、太陽は舞う
やがて草木は茂り、森となる
閉ざされた世界
終わらない命の輪廻』
ウェリムーザだ。
神々しい詞を、まるで唄うかのように紡ぐ。
この耳に心地よい響きは、二人の心にすんなり入ってきた。
「―――召喚の際、詠唱する呪文か…?」
ウルドの難しい呟きに、イオは不思議そうにウルドの顔を伺った。
先程からやけにシリアスなウルドに少し戸惑ってしまう。
『汝…その通りだ。
今ので汝らの心に刻まれた。
本当に必要な時、思い出すだろう。
ちなみに我が力は植物と癒し。賢く使うがいい』
それだけ言うと、ウェリムーザが天井ぎりぎりくらいまで高く伸び上がった。
ふぅ…と緑の光も消えてしまう。
まだ見ていたかったイオは少し残念だった。
『汝ら、出口まで送ろう。
力を抜いて目を閉じていろ』
ウェリムーザ…いきなりすぎる。
「ええっ?
ちょっと、待…」
慌てているイオ、おとなしく言われるがままに目を閉じるウルドをまた緑色の光が包み込んだ。
温かい…。
命の源。
森という閉じた世界。
『進むことを恐れるな。運命がどちらへ転ぶかは汝ら次第…』
急に景色が歪んだと思うと、一瞬身体が宙に浮く感覚に陥った。
これが空間移動。
一瞬にして違う場所に転移できる便利なもの。
主として人間の使えない力…“魔法”。
「………おぇ、気持ち悪くなった」
イオは一度も味わったことのない不思議な感覚に酔ってしまった模様。
またしても景色が歪む。
一気に身体に体重が戻ったかのように重くなる。
どさっ
うつ伏せの状態で投げ出されたようだ。
下が柔らかい土と、草花の絨毯だったのが幸い。
ここは…荒れた神殿の入り口だった。