forget-me-not
「歌う…?」
ウルドは怪訝な顔。
しかし目の前にはイオの笑顔。
駄目だ…歌わざるを得ない。
「ウルドは何か知ってる歌ある?」
ウルドがイオの無茶ぶりに慣れるのにはまだ当分かかりそうだ。
「え……俺、歌殆んど知らない」
ウルドは遠慮ぎみに笑ってみせた。
歌なんて歌ったことなどないに等しい。
イオのように明るい性格でもないし、他人と関わらないから。
「――じゃあ私が教えてあげるよ」
イオは一人、気持ちよさそうに鼻歌を始めた。
前奏…。
ウルドは固唾を飲んで、歌うイオの声に耳を澄ました。
イオの澄んだ歌声が荒野に響き渡る。
大地、風、空、ウルド…。
全てがイオの歌声に聞き入った。
“旅立ちの空
君と僕の姿を映して
道端の白い花
誰にも気付かれることなく揺れて薫る
どこまで僕ら歩いていこう
立ち止まったっていい
振り返ったっていい
ただ一筋の光
それを失わなければいい
君は笑えるでしょう
僕もきっと笑うでしょう
ちっぽけなこの世界
そこで生きるちっぽけな僕ら
これは世界の片隅から始まる物語
あの日から続く未来の旅路”
歌い終えたイオがウルドを見やる。
深緑の瞳に見つめられ、ウルドは視線をずらした。
自分には眩しすぎるイオの輝き。
闇に生きる自分を照らす光のような少女。
「そうやってウルドはすぐに目、反らすんだから…」
イオは仕方なさそうに腕組みをする。
華奢なイオが腕組みしても威厳は感じられず、寧ろ意地らしく可愛いらしい。
ウルドの頬がほんのり赤く染まるのも気付かず、イオはまた先程の鼻歌を始めた。
ゆっくりと、しかし確実に時間は過ぎる。
戻らない、決して止まらない時間を惜しみながらも、二人はただ歩く。
光差す方へ。