forget-me-not
「え…あ、はい」
イオは目の前の乗り物と運転手を交互に見て答える。
見たことのない乗り物。
黒光りしたバイクのような形状の運転席が、連結してある客席を引くような形。
[電光石火]
と殴り書きされた幟が立っている。
「センス無い……」
イオが幟の言葉に素直な感想を述べると、運転手は鳶色の瞳をキラリと光らせた。
怒った…?
イオはささっとウルドの背に隠れた。
「ウルドどうにかして?」
イオはウルドの耳元で歌うように囁いた。
何だかずるい…。
イオの願いを断ることができないウルドは重そうな溜息を一つ、イオを庇うように立ちふさがった。
ウルドの異端すぎる容姿に運転手は一瞬怯んだ様子を見せる。
しかし、すぐにそれは柔らかい笑顔に変わった。
「旅人さん達、よかったら乗ってく?」
「は……?」
急に友好的になった運転手に変な視線を送るイオとウルド。
しかしそんな視線を余所に、運転席を降りてくる運転手。
「突然登場して悪かった。
俺はこの風力車の運転手、アルバートだ。長いからアルって呼んでくれ」
黒い革のジャケットに、ロック調のインナーを着こんだ運転手アルバート。
砂や土埃から目を守るためであろうゴーグルも似合っている。
焦げ茶色の髪に、鳶色の瞳の青年。
きりっと細い眉がアルのトレードマーク。
「軽そう…」
「変な奴」
イオとウルドは口々に言い放つ。
「えぇぇ!?
なんか容赦ないっ…」
アルは二人の悪気のない言葉に肩を落とした。