forget-me-not
座席に横になりながらイオはふと、思い立ったように鞄から小さな缶を取り出した。
何も装飾されていないただ小さいだけの缶。
「イオ、それ何?」
缶に興味を示したようで、ウルドはじっとそれを見ていた。
その瞳の輝きはお菓子をねだる幼子のようで、イオはウルドが可愛く思えた。
「これね、飴入れてんの。ウルドにもあげる」
イオは缶から飴玉を二つ取り出した。
一つは自分の口に、もう一つはウルドに手渡した。
「飴……」
ウルドの手の上にちょこんと乗る飴玉。
甘い香りを放ち、赤く光を集めている。
「ウルドのは苺味だね。
飲んじゃ駄目だよ、口の中で味わうんだよ」
中々口に入れないウルドに、飴についての説明をするイオ。
ウルドがきょとんとした顔を上げて、イオを見た。
「綺麗な食べ物なんだな、飴って…」
飴一つに感動してしまうウルドにイオはつくづく感心してしまう。
本当に純粋なんだな…。
ゆっくりと飴を味わうウルドを見つめ、和やかな表情のイオ。
ただ平和な時間。
ブォォォォン…
「……他の風力車?」
進行方向とは逆の方。
あの爆音が追うように近付いてきた。
ウルドでなくとも思わず顔をしかめてしまうほどの爆音はアルの風力車の比ではない。
「もう…公害だよ、公害っ」
苛々しながらイオは窓から身を乗り出して後方を睨んでみる。
近づいてくる他の風力車…。
どうやら平和な雰囲気ではなさそうだ。
「イオ、ウルド、厄介者が現れたみたいだ。
奴らを撒くために少し運転手荒くなるけど堪忍なっ」
アルが一度客席を振り返り、すまなそうに笑った。
イオもウルドも神妙な面持ちで頷いて反応を示した。