forget-me-not
アルはハンドルを握り直す。




バックミラーに映るは迫り来る風力車。



あのスピードの出方は違法改造だろう。



恐らく相手正式な“荒野の運び屋”ではない。


質の悪い盗賊…。





アルはバックミラー越しに相手をきっと睨んで、ハンドルを大きく右にきった。



軋むタイヤ。
唸る風。




運転席と連結してある客席にはその揺れもダイレクトに伝わるわけで…。







「ひゃゃああぁぁぁ」



響き渡るイオの悲鳴。
尋常じゃない揺れに椅子にしがみ付いているのがやっとの状態。




「ウルド…助けて」




今にも死んでしまいそうだと主張するイオを見兼ね、ウルドはイオの細い腕を掴み、ぐいと引き寄せた。





「…俺に掴まってて」



ウルドは照れくさそうに言い、イオから目を反らした。



大胆、かつ紳士的なウルドの態度にイオは目をぱちくりとする。


そして嬉しそうに頬笑むと、ぎゅっとウルドにしがみ付いた。




「ウルドありがと」




ウルドはイオの方を見ずに、頷いた。

恥ずかしいのか頬をほんのり赤く染めている。





「ウルドってば―――」



イオが何か言い掛けたその時、車体に大きな衝撃が走った。





イオとウルド二人、不安げに窓の外を見る…。



見えたのは荒れた大地ではなく、先程まで後方を走っていた風力車の姿だった。


こちらの車体にぴったりと寄り添い、何度も車体をぶつけてくる。




横転させるつもりだ。






ガガガガガガガガ…



車体同士が擦れる不快な音。






刹那、車体が大きく傾いた。



「……あ?」



イオが呟いたのも束の間。



世界が廻る。
宙を舞う身体。






「あわわわゎゎゎゎ」




イオは手足をばたつかせ、焦る焦る。


ウルドはそれでもしっかりとイオの手を握り締めていた。





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