forget-me-not
ロキは腰を抜かし、言葉を無くしたままウルドとイオを交互に見た。
先程まで殺気を帯びていた悪魔のような男は、どうやら意気消沈した様子。
少女に支えられながら小さく縮こまり震える……。
まるで迷える子羊のようで。
「ロキ……何があった?」
慌てて駆けてくる赤髪の男の声に、ロキはやっと立ち上がることができるようになった。
情けない…。
立ち上がったはいいものの、まだ足がふらつく。
「情けないな、ロキ。
何があったんだ?」
赤髪の男は溜息をつく。
腫れた顎を押さえる涙目のロキは頭を深々と下げた。
「……殴られました」
ウルドを指差し、必死に赤髪の男に訴えるロキ。
ウルドは眉を潜め、イオを背中に隠した。
驚いた赤髪の男と、それを睨み付けるウルド…。
「お前人間じゃないな?」
赤髪の男の挑発するような言い方に、ウルドは込み上げる殺意を抑える。
イオの前で惨い殺しはしたくない。
「――お前だって人間ではないだろ」
ウルドの皮肉な笑みと言葉に、赤髪の男は嘲笑う。
「―――いいから出て来い。後ろの女も一緒にだ」
ウルドは唇を噛みしめ、イオを気遣いながら渋々赤髪の男に続いた。
どうしてこんな厄介なことになった…?
ただ町を目指していただけなのに。
ウルドは心配そうにイオの様子を伺う。
イオは揺らがない強い瞳をしていた。しっかりと前を見据え、凜とした表情。
連れてこられた先はアルが捕まっている場所。
アルはウルドとイオの姿を捉えると、申し訳なさそうに表情を暗くした。
「ウルド、イオ……。
俺が腑甲斐ないばっかりに……」
「アルのせいじゃないよっ」
すかさず口を開いたイオに続き、ウルドも深く頷いた。