forget-me-not


「――何のつもりだ?」


ハノイはウルドに詰め寄る。



ウルドが魔法を使ったことは、ハノイにも理解できた。


しかし聞いたことのない呪文だったため、どんな効力の魔法なのかわからない。




ウルドは奇麗に口元を歪め、紅い瞳を細めた。





「……悪いな」




ウルドの不敵な笑みに、ハノイは血の気が引いた。



そうか。
もう術は発動しているのか…。





ハノイの足は、何か見えない力によって拘束されたように動かなかった。




ウルドが使ったのは相手の動きを封じる風属性の魔法。







「…………俺はここでお仕舞いってわけね――――」



無力なハノイは大鎌を手にしたウルドを前にして、諦めたように目を瞑った。










「ハノイの兄貴…っ」



ロキとエデンの悲鳴に近い声が遠く聞こえる。



次の一撃…。

これで全ては終わる。



ハノイはぎゅっときつく目を瞑り、死を待った。































「………?」




おかしい。
鎌が振り下ろされない。




何故自分はまだ生かされている…?



ハノイは恐る恐る、震える瞼を上げた。





見えたのは、大鎌の禍々しい刄。



しかし、自分に振り下ろされる一歩手前でぴたりと止まっている。






「――こ、殺さないのか?」





静かにハノイはウルドに問う。




ウルドはハノイから鎌を遠ざけ背中に背負うと、ばつが悪そうにしていた。






「確かにお前らはむかつく。

でもイオの前で殺しはしないと誓った」




ウルドはそこまで言うと、イオの方を向いた。


イオはきらきらとした笑顔を咲かせ、歩み寄ってくる。






「ウルドありがとね……」



ウルドにとってとびっきりの言葉。
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